No.1 フィットネスインストラクターの今昔
クラブパートナー誌 2006年1月号掲載
新年明けましておめでとうございます。いよいよ2006年のスタートとともにこの連載もスタートとなります。25年間のインストラクター歴が生かせるような内容をお届けできればいいのですが・・・スタートに当たって今月は私の自己紹介を兼ねながらフィットネスインストラクターの25年の変遷を辿ってみたいと思います。
インストラクターへの道
今から25年前といえば、ちょうど米国でのエアロビクスブームに目をつけて日本にエアロビックダンスが紹介されたような時代です。この頃、私はカルチャー教室や小さなダンススタジオでジャズダンスや子供バレエを教えながら演劇活動を行い、舞台に立っていました。エアロビクスというものをまったく知らないまま、時給がよさそうという動機だけで、あるクラブのエアロビクス養成コース(とても短期でした)に通い、エアロビクスインストラクターとなったのがきっかけです。
ジャズダンスやモダンバレエをやってはいたものの、この当時のエアロビクスは、とにかく同一動作を「これでもか!」と言うくらい繰り返して行い、肩や足がパンパンにヒートアップするのを快感と感じるような参加者たち相手のレッスンですから、はっきり言って、私にはとんでもないエクササイズのように思いました。といってもエアロビクスの参加者は自分と同じような若い20代の人たちがほとんどでしたから、一緒に踊っているだけでレッスンは楽しく盛り上がったものです。
今では、笑い話となりますが当時のインストラクターは、レッスン前までは参加者とコミュニケーションをとってはいけないとか、英語で指導をしなければいけないとか、あくまでも参加者からかっこよく見られるために最新のウエアに身を包み、レコードジャケットを小脇に抱え、ちょっと近寄りがたい雰囲気を作り出すような演出に力を注いだものです。
プログラムは、比較的シンプルであったことから、丁寧なキューイングや解説など必要なく、ただひたすら一生懸命動いてエキサイティングに盛り上げることがインストラクターの役割だったように思います。
やがて、フィットネスクラブが多くなるにつれ、参加者層の幅も広がり、プログラムの幅も広がっていきます。
1990年代がまさしくそうです。ローインパクト、ステップ、ダンベルやチューブなどを使ったコンディショニング、そしてプールでのアクアエクササイズも一気に広がった時代です。私自身も結婚や出産、会社の設立などを経験しながら、とにかく新しく紹介されるエクササイズをどんどん習得して現場で実践する日々でした。エアロビクスだけをやっていればよかったのに、新しいプログラムを習得することで、参加者層や運動レベルの幅が広がり、グループレッスンの中で指導の難しさを感じた時期でもありました。
レッスンフィーの悲哀
一つひとつのプログラムの精度を上げることよりも、とにかく誰よりも早く新しいエクササイズを身につけて行うことで、インストラクターの価値が上がると躍起になっていたように思います。ちょうどバブルに向かってフィットネスクラブがどんどん増え続けた時代でした。やがて景気の翳りとともに、フィットネスクラブの倒産やM&Aが進み、インストラクターの質が問われるようになります。単純にスタジオの中央で元気よく指導しているだけでは、集客が見込めない、初心者の定着につながらない、キャリアの長いインストラクターのフィーの高騰を抑えたい・・・大手のフィットネスクラブが、インストラクターの査定評価やスキル評価に力を入れだしました。
インストラクターに求められる能力は、指導力(プログラム作成、ティーチングなど)だけでなく、自己管理能力、クラブへの帰属意識、協力度など幅広くなっていきます。このころ、私もいくつかのフィットネスクラブのインストラクター評価、査定、育成に多くの時間を取られていました。どのクラブも経費削減を強いられる中、必死で売り上げ確保、入会者獲得に躍起になり入会金の廃止や月会費の下落が進んだのでした。
インストラクターになったころ、安くても1レッスン5000円~10000円くらいだったフィーは、いつのまにか3000円~4000円くらいになっていました。インストラクターも新しいプログラムを習得することより、少しでもレッスンフィーをあげるために、各クラブの査定評価を受けることに時間とお金を費やしていました。このことは、インストラクターにとっては大きなストレスとなりましたが、評価の公平さにおいては多くのインストラクターが納得することとなります。また、強制的にしろ、一定の評価を受けることで自分自身の課題や問題点を見出し、それをクリアすることで結果としてフィーに反映されるということで、インストラクターのスキルアップとモチベーションにもつながったのでした。
多様なインストラクター像
やがて、21世紀に入りバブルショックも落ちつく中で、日本の高齢化社会到来は切実な問題となって迫ってきました。各クラブの会員動向を見ても40代以上の会員層が大半を占めるクラブも出現し、60歳以上のシニア層の健康意識の高まりとともに、クラブにも日中は長時間滞在型のシニアが増えるようになってきました。いつのまにか、激しいエキサイティングなエアロビクスからスタジオプログラムは、シニアにも安心して参加してもらえるような運動強度の低いプログラムが数多く占めるようになっています。また、忙しい運動不足の世代ともいえる20~30代の人たちに向けた、ショートプログラムが大半を占め、60分のレッスンは数えるほどになっていきます。
また、今のフィットネスクラブのプログラムのキーワードは「マインド&ボディ」「スローフィットネス」「LOHAS(ロハス)」ということになるでしょうか?参加者の1人1人の目的や要望が多様化し、そのニーズに応えられる能力や効果を感じられるようなプログラム、指導を求められるようになっています。付け焼刃の知識や「な~~んちゃって」というようなごまかしエクササイズや指導では通らなくなってきている難しさがあります。そういう意味では、本物が評価される時代になってきたのですから、努力や自己研鑽を積み上げたインストラクターの出番ということになるのでしょうか?こうしてインストラクターの2極化が進んでいるとも言えます。
インストラクターという仕事に生きがいを感じながらキャリアを積んでいくインストラクターもいれば、短期促成栽培の教育を受けてアルバイト感覚で仕事を捉え、自分のライフスタイルを楽しむインストラクターもいます。インストラクターを一言で語れなくなった時代が今です。私自身も40代半ばとなり、自分の娘、息子と違わない世代のインストラクターと職場を一緒にするようになっています。25年を振り返ると感慨深くなってしまいます。どの時代が良かったというのではなく、社会や時代の変化とともにフレキシブルに変わってきた業種と言うのもフィットネス業界ならではと思いますが、今後の日本の社会情勢にフィットネス産業はどのように対応変化し、インストラクターは、さらに変貌をしていくのか楽しみでもあります。皆さんもそう思いませんか?