No.7ドイツ研修ツアーレポート ~ドイツクアオルトにみる健康づくりとは~
クラブパートナー誌 2006年7月号掲載
*滞在型体験ツアーでの大きな収穫
今月と来月は、6月8日~16日までドイツのクアオルトに滞在して体験をしてきた「コンパクトクア」についてレポートしたいと思います。
私がドイツへの研修ツアーを初めて企画したのが6年前ですから、すでに6回目のドイツ訪問となります。今までの5回のツアーは、いずれも指導者の方を対象としたアカデミックな研修ツアーでしたが、今年はがらりとターゲットを変えて、私の周りにいるフィットネスクラブのお客様を中心に、ドイツのクアオルトを体験するツアーを企画してみました。
その意図としては、お客様から私たちもドイツでのクアを体験してみたいという声があったのも事実なのですが、実際には5年間の研修ツアーを通して、もう少しのんびりとした時間の流れの中で、滞在型クアオルトのよさをじっくりとこの目で見て触れてみたかったことがあります。
ドイツにおいても医療改革の問題で長期滞在のクア治療はだんだん難しくなってきています。そのため、治療よりもよりプリベンション(予防)のほうへ考え方がシフトしてきています。このあたりは日本と同じですね。(介護予防に関する制度が大きく変わりました。)またドイツでも高齢化問題は日本と同じで国民医療費の増大による問題もかなり危機的な状況です。それゆえに、国民医療費の一部負担(今まで国民は無料)が施行され、そのあおりでクアオルトの運営も厳しくなってきているのです。
私たちが訪れたバッドベリンゲンのオリバー・ハインツ氏はそういった厳しい情勢の中でも業績を確実に伸ばし、赤字を減らしてきています。そのクアオルトの新しい商品展開としてあるのが「コンパクトクア」です。この商品でもって、近隣のフランスやスイス、イタリアからの滞在者も増えているということでした。このコンパクトクアのセールスポイントは、短期滞在の中でも確実に効果を得て、感じられるということがポイントでさまざまな試みがなされています。今回は、私たちも医師のメディカルチェックを受け、それに応じた運動処方をいただき、さらにこのバッドベリンゲンのクアオルトを堪能するメニューを体験してきたのです。
その中でも、日本ではなかなか体験できない運動負荷試験と血液検査を通しての各個人にあった運動プログラムのメニューをフライブルク大学のフーバー博士より1人ずつにフィードバックをしていただき、カルテを書いていただくという貴重な体験を得ました。(もちろんドイツ語なのでどうやって解読しようかただいま思案中です。)私個人は、運動負荷試験の後、一酸化炭素と血液の結びつきを調べるテストを受けさせられたのですが、赤血球の酸素運搬能力が高いというお墨付きをいただきました(インストラクターとしては当然ですが?)。でも後で聞いたところこのテスト結果は、IOC(オリンピック委員会)のほうにデータが送られ、各国の選手たちの試合前の血液検査時の指標となる資料の一部になるそうです。
フライブルク大学で取り組んでいた研究のところへ、ちょうど日本人の私たちが訪れたことがタイミングよかったようです。とても痛い検査でしたが、なかなか体験できるようなテストではなかったのでちょっと得をした気分です。つまりこのようなテストが、スポーツ選手、労働者、一般の方に区別なく同じような検査とフィードバック(運動処方)が行われるようです。フーバー博士は、熱心にたくさんの情報とともにフィードバックをしてくださいました。その知識の豊富さや個々にあったフィードバックは、あまりにも的をついており、優しい笑顔でお話してくださると、ツアー参加者の皆さんもこっくり頷きながら、「日本に帰ったら、早速トレーニングを始めなければ!」という力強い言葉が飛び交っていました。
*指導者にはたくさんのアプローチが必要
運動に対する動機付けややる気をそそるための投げかけには、まずは説得力のある知識は、やはり確実に必要だと思いました。そしてそれを惜しみもなく相手にわかりやすいように伝えていくこと、フーバー博士の笑顔や声の抑揚、言葉の数々は思わず身を乗り出して聞きたくなってきます。もしドイツ語を理解することができたなら、よりもっと深いコミュニケーションをとることができたかと思います。「難しいことをやさしく」「やさしいことは深く」「深いことは楽しく」人に伝えていくことが1人でも多くの運動参加者を増やしていくことのように思います。
医師や大学の先生方でこういったアプローチをしてくれる人がもっと増えたなら・・・インストラクター自身がもっと学ぶことを積極的にしたなら・・・いろいろと考えさせられました。
またこのフライブルク大学では、医師になるための勉強をするのはもちろん、医師となった後のより専門的な分野の勉強、スポーツに関する知識の勉強、そしてスポーツに関する指導者の人たちが医学的知識を学ぶための勉強の場も提供しているということでした。運動と医療が近づく場が提供されているのです。日本のフィットネスの現場もこれから医学的な知識を持つことがもっと求められてくると思いますが、私たち指導者をそういった知識をどうやってモノにすればいいのか、悩むところです。
皆さんはどう思いますか?これからは運動を始めるきっかけが医師の言葉による人が増えてくると思います。まだまだ数%の参加者しかいないフィットネス人口を増やすためには、現場にいる私たちが、勇気を振り絞ってきた参加者をしっかりと受け止め、挫折させることのないようなナビゲーションをする必要があります。
今回は、クラブのお客様が参加されていたツアーだけに、ツアー参加中は指導者にとって耳の痛い話もたくさん言ってこられましたが、そういった声に耳を傾け、1人1人の背中をそっと押してあげられるような指導を目指したいものです。人は、ほんの些細なきっかけで元気にも病気にもなってしまうのだから・・・
私たち指導者ができることは、運動をしたい人を待つことだけでなく、運動を知ってもらうこと、感じてもらうこと、続けたいと思っていただくこと・・・たくさんのアプローチをもたなければなりませんね。
次回は、数々のドイツでの体験内容をご紹介させていただきます。