No.28 本物の指導者に必要なマーケティングとは?
クラブパートナー誌 2008年4月掲載
昨年から今年にかけて、大手フィットネスクラブの新規入会者の減少や業績の悪化に加えて、人員削減、レッスンフィーのカットなど少し暗いニュースが続きます。マスコミや社会としては「メタボリック対策」「高齢者対策」などが叫ばれるにもかかわらず、フィットネス業界としては「ヨガ・ピラティス」に続くトレンド商品が出てこないことで、前途は暗澹とした様相です。そんな中で私たち指導者は、今まさに何をサービスしているのか?どのように提供しているのか?真価を問われているような気がします。
フィットネスクラブがこのように増えてきた背景には、時代のニーズを読み取りながらマンネリ化することなく新しいプログラムや商品、システムの開発に切磋琢磨してきた結果といえるでしょう。しかし、いつの頃からかプログラムは形だけを、システムは効率だけを求めるようになっていきました。クラブのお客様の熱が冷めるのが早いのか、クラブで提供する商品の移り変わりが早いのか・・・いたちごっこのようです。そのようなフィットネス業界の中で安定している商品は、スイミング、ストレッチング、シンプルなエアロビクス、キャリアのある指導者の公平なレッスンではないでしょうか?これらに共通することは、プログラムの内容がわかりやすい。マイペースでできる、スキルの上達に合わせた目標が持てる、安心してできるといったようなことになると思います。まさに、今必要な商品は「安・本・単(あんぽんたん)」なのです。「安」とは、安全で安心してできるプログラム。「本」とは、本物の指導者で本質のあるプログラム。「単」とはまさしく簡単で単純なプログラムということになるでしょう。私たち指導者は、自分自身が運動好きで、運動によって効果を実感し、運動を楽しいものと捉え、それを多くの人に伝えることに使命を感じています。スイミングのコーチは、水泳が大好きで、エアロビクスのインストラクターは、音楽に合わせてダンスをするのが大好きで、フィットネストレーナーは、ウエイトトレーニングをすることに充実感を感じているのです。という原点に立ってみれば、もっと多くの人たちに運動の楽しさ、心地よさ、効果を伝えられるはずなのに・・・
フィットネス人口が、欧米諸国に比べてまだまだ増えない日本の現状には、フィットネス業界がなんとなく違った方向に向いているような気がしてなりません。アメリカを見てもヨーロッパを見てもフィットネスプログラムは非常にシンプルです。昨年のヨーロッパのフィットネスクラブの視察においても、日本ではちょっと考えられないくらいのエアロビクス(20年位前のエアロビクス)が普通に行われています。アクアエクササイズにおいても、音楽はかかっていても音に合わせることもなく、黙々とトレーニングのように同じ動作を反復して満足しています。日本のフィットネスプログラムは非常に多種多様で複雑で、更に最近はフュージョン(融合)プログラムが増えたことでますますわかりづらくなっています。日本人の国民性といってしまえばそうかもしれませんが、果たしてそうなのでしょうか?少なくとも私の周りのフィットネスクラブに通わない人たちにいろいろと聞いてみると、決して今のフィットネスクラブにあるような商品、プログラムを望んでいるわけではないようです。耳の痛いきびしい意見としては、「指導者が自己満足しているレッスン」とまで言う方もいらっしゃいました。どうして一般の方にそのような印象を与えてしまったのでしょうか?結局、指導者がサービスの本質を見失っているからではないでしょうか。指導者自身がプログラムにマンネリ化してしまっているか、一部のお客様の気を引くためのレッスンに特化しているかということでしょうか?多くの指導者にそんな質問を投げかけてみると、「自分に自信がもてない!」と言います。「自分の仕事に価値が見出せない!」とも言います。中堅どころから若手の指導者にそんな声がたくさん聞こえてきます。すでに28年の指導歴をもつ私が愕然とします。私たちフィットネス業界の先頭を走ってきた指導者たちは、次代を担う指導者たちに何を伝えてきたのでしょうか?フィットネス業界は、若い指導者たちをどのように育ててきたのでしょうか?近年のプレコリオを覚えて現場に立つというスタイルは、運動の形を伝えるには手っ取り早い方法ですが、運動の本質を伝えること、教育することには意味を持たない証明のような気がします。本物の指導者を育てるのも、フィットネス人口を増やすのも業界全体が考えなければいけない問題ですが、いま誰もどこもそんな余裕はありません。誰かのせいにしたり、言い訳をしている場合ではないのに・・・大手のクラブが身動きが取れない今、一人一人の指導者が意識を変えるしかありません。
先日、私はフィットネス業界とはまったく違う演劇界の方とお話をする機会がありました。その方が集客について語ったときに「今、まさにマーケティングが必要であり、重要である!」と言われました。「劇場にお客様が足を運んでもらうためには、劇場に来たときのサービスつまり舞台の演目や内容だけでは、集客できないと・・・
サービスつまりお客さまが行動を起こすための期待(ワクワク感)は、劇場に来る前から始まっているという考え方を持たなければならない。つまりチラシを手にしたとき、チケットを購入するとき、劇場までのアクセス、道のり、劇場内の環境・・・すべてがお客様の視点に立ったサービスとならなければ集客はできない。」ということでした。
この話は、まさしくフィットネスクラブや運動教室にも言えることです。新聞の折込チラシやクラブへの入会手続きにワクワク感がもてるのでしょうか?クラブに見学に来たときに興奮できるのでしょうか?入会してクラブを利用したときに感動できるのでしょうか?どうも、フィットネス漬けになった側のマーケティングで留まっているような気がします。チラシは、運動嫌いな人、苦手意識のある人に見やすいものなのか、入会手続きは高齢者や忙しい人にとって簡潔でわかりやすいものなのか?クラブの機器は扱いやすいものなのか?そして何よりも居心地のいい環境、人間関係が提供できているのでしょうか?
24年もフィットネス業界に身をおく私ですら、新しいフィットネスクラブの見学や体験に行くとドギマギします。既存のクラブに行くと疎外感を感じます。一般の方ともなると相当な勇気と前向きな気持ちがないとフィットネスクラブには足を運べなくなってしまいます。
今の、業界の現状の責任は、私たち指導者にもあります。いろんな考え方があっていいと思いますが、本物の指導者を目指す人、もっと多くの人に健康づくりを支援したい人、運動の面白さ、楽しさ、心地よさを伝えたい人は、今求められるマーケティングを考えてみる必要があるのではないでしょうか。
私は、自身が会長を務めるNPO法人いきいき・のびのび健康づくり協会において、さまざまな養成・育成研修を行っています。今年度よりエアロビクスの養成コースを中心にカリキュラムを大幅に変えて、エアロビクスの習得・指導ではなく、エアロビクスを通して運動指導・教育できる指導者の育成にシフトをしていきます。新しい試みですが、フィットネス指導を目指す人たちの情熱と期待を育てたいと思います。