No.29 和”を知り、活かすこれからのフィットネス
クラブパートナー誌 2008年5月掲載
2008年度の春を迎えインストラクター歴が28年となり、フィットネス業界の発展とともに自分も歩んできたことをちょっと振り返ってみました。もともとインストラクターになりたくてこの業界に入ったわけではありませんでしたが、気がつくと28年もひたすら、身体を動かして多くの人の前でエクササイズを指導してきたことになります。多くのインストラクターは、スポーツが好きで、ダンスが好きで、身体を動かすことが得意で、好きなこと、得意なことを人に伝えていく喜びとやりがいに選んだ仕事だと思います。インストラクターにとって自分の好きなこと楽しいことを多くの人と共有できる幸せは、何よりも仕事の原動力でありやりがいとなります。そこには、「ワクワク感」がいっぱいあることでしょう。グループレッスンにおいては、多くのお客様はそんなインストラクターを見て元気をもらい、インストラクターに憧れ、自分の目標や指標としてきたことでしょう。
私自身は、ダンスもスポーツもそんなにいうほど得意ではありませんでしたが、身体を使って何かを表現することにはとても興味がありました。19歳から25歳までの間は、演劇の舞台を踏みながら、さまざまな身体表現を試みた時期です。モダンバレエにタップダンスにジャズダンス・・・日舞にお茶に三味線・・・サーカスでピエロの修行もしてみました。最終的にお客様との距離が一番近く感じたエアロビクスとの出会いによって、フィットネス業界にどっぷり浸かることになったわけです。エアロビクスを選択した理由であるお客様との距離とは、一人一人のお客様の心を私自身が感じること(キャッチ)のできる距離ということです。インストラクターはお客様が受け取りやすいボール(=エクササイズ)を投げること、そして投げたボールをお客様が投げ返しやすい距離に立つこと。もっと言うならば、そのボールを通してお客様の気持ちを感じ取ることができる距離ということです。お客様に応じていつまでもキャッチボールが楽しくできる距離感を大事にしたいと思ったのがエアロビクスを選択した理由でした。演劇人としては、気負いがあって一人で空回り。お客様とのキャッチボールができず、いつのまにかボールを見失ってしまい挫折してしまったのです。
最近、何となくインストラクターは元気がない!なんて声を聞きますが、インストラクターの皆さんはお客さまに届けるボールを大切にしていますか?また、自分のレッスンを振り返って大好きな仕事をキャッチボールできているか考えてみましょう。一人でボールつきや打ちっぱなしをしたり、むやみやたらにボールを投げつけたりしていませんか?私たちの仕事は、お客様に伝えて、届けて、変化があって手ごたえを感じられるものです。伝える努力、届ける心遣い、変化に対する承認(賞賛)がキャッチボールのコツです。さらにグループレッスンの場合は、それをインストラクターと一人のお客さまではなく、同じ時間と空間を共有している多くの人と分かち合えることの素晴らしさがあるのです。クラスに参加している人全員が公平に楽しくキャッチボールができたなら「和のフィットネス」ですね。
農耕民族であった日本人は、「田植え歌」を歌いながら、リズムを取って協力しながら作業をし、できたお米は合いの手や調子をとりながら餅をつき、出来上がったらみんなで輪になり飲んで歌って踊ったのです。いつもそこには人との関わりあいが生まれ、たくさんのキャッチボールができたはずです。それが性に合っているはずです。日本人特有の「和」を求めたサービスがフィットネスの中にあったなら、よりもっと多くの人は健康的になれるのに・・・個人のニーズはとても大切ですが、個人のニーズに振り回されてしまう感のある昨今のフィットネス業界です。業界の歴史が25年以上になる今、みんなで考えていきたいテーマではないでしょうか?
そんな思いをめぐらしながら、今回はNOSS(日本おどりスポーツサイエンス)という新しいプログラムをご紹介したいと思います。日本人の日本人による日本人のための(世界の人のためにもなります)エクササイズが、いよいよフィットネス業界に上陸しました。このプログラムは、日舞の西川流の三世家元西川右近氏と中京大学の湯浅影元教授が科学的エビデンスに基づいて考案したものです。西川右近氏が大病からの回復に、早い段階で日舞の稽古を始めたことで、筋力や身体機能の回復が見られたことから、「筋力を回復する」「筋力を維持する」「筋力を高める」目的が日舞の動きにはあるのではないかという興味からNOSSは生まれました。実際に私も3日間の講習を受けさせていただきましたが、筋肉へのアプローチのみではなく、軽く息も弾み汗もかけるような有酸素運動効果も、立位のバランス効果も得ることができそうです。さらに日舞独特の日常生活にはない動きを行うことで、脳への刺激や無意識な筋肉の活性化にもつながります。「死ぬまで自分の筋力で動き続ける」というコンセプトは、高齢者の自立を促す意味もあり、厚労省が進める介護予防のモデル事業の1つにもなっています。
NOSSではオリジナルのゆったりとした音楽が使われています。二胡と三味線による音楽は、リラクセーション効果をもたらします。また太極拳もそうですが、スローテンポの動きは、急激な力が加わることが少ないので怪我を起こしにくく、少ない力で筋肉の力を持続的に出し続けなければならないことで、筋持久力や全身持久力を高めることができるのです。日頃運動不足の方や低体力者の方、高齢者の方、さらにストレスを抱えた忙しい方にとっては取り組みやすい6分45秒の運動プログラムです。またNOSSの振りには、日舞独特の「木の葉」「雪受け」「小鳥とび」などイメージしやすい動きが取り入れられており、日本人の心をワクワクさせる要素が含まれています。腰を落とした動きやすり足は、下肢の筋力強化にとどまらず、日本人の日常生活の所作や行動につながりやすいのも何となくしっくりするところです。ようするに「エアロビクス+筋トレ+ストレッチ」の要素が日本人の所作にフィットした振りで構成されているということです。
従来のフィットネスプログラムが、アメリカなどの海外からのインポートエクササイズが中心だけに、日本から発信できるエクササイズの発展に非常に期待が持てるところです。すでにこのNOSSは、アメリカでもワークショップが行われており、高い評価を得ています。日本の良さは、意外と日本人の私たちより海外の方のほうがよく知っているのかもしれません。また今年の10月には、スイス&ドイツでのワークショップも企画が進められています。日本では今後、大阪、金沢、東京での認定講習会が予定されています。
今回、NOSSと出会ったことで「ワクワク」するような可能性を感じています。昨年から取り入れている“和”のフィットネスプログラムとしての「よさこいソーラン」も集客が好調ですし、フラダンスや太極拳のようなスローフィットネスも根強い人気プログラムです。NOSSには“和”の要素にスローフィットネスの要素が加わり、フィットネスプログラム、健康づくりプログラム、介護予防事業プログラムとして発展する可能性が高いと思います。もしかしたら日本のフィットネス人口が増えない原因には、日本人のための日本人にあったプログラムが少なかったからかもしれません。そろそろ発想を切り替えて、運動に尻込みをしている人たち、運動を恐がっている人たち、運動を不安に思っている人たちとのキャッチボールを始めていかなければなりません。私たちインストラクターが、多くの方々に伝えるためのさまざまな努力を、ネガティブな人たちへの気配りを、そして少しでもチャレンジしてくれたなら、意識や行動に変化があったなら、そのことをともに喜び合えたらと思います。
家元の西川右近氏の言葉が私の心に響きます。「家元制度における家元とはピラミッドの頂点に君臨しているように見えるけど、本当はそのピラミッドを逆さまにして多くの人の礎となるのが家元なんだよ!」と・・・
フィットネス業界もそろそろピラミッドを逆さまにしないといけませんね。その礎は、私たちインストラクターが担いたいものです。