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No.36 新しいアプローチとは?~顧客に向けた舞台づくり~

クラブパートナー誌 2008年12月掲載

先月号に引き続き、今月もスイスの「ベルンアクア」の視察とオリバー・ハインツ氏のマネージメントセミナーからのレポートをお送りしたいと思います。先月号の新しいアプローチの考え方に基づいて、「ベルンアクア」が目指したことは、「如何に顧客にアプローチするか?」そして「そのための舞台づくりをどのようにするのか?」と言うことです。

ここで少し私の個人的な話になりますが、私は20代前半の頃演劇の世界に身をおき、小劇場を中心とした舞台活動を行っていました。演劇の世界では、演出家や舞台装置、照明、衣装、小道具の方が裏を支えてくださり、役者である私たちが舞台に立って、ワクワク、ドキドキするような舞台を繰り広げ、そこにお客様が集まってくださることになります。お客様の入りがいい集客がいい舞台とは、多くの場合演目が話題を呼ぶ内容だったり、興味深い楽しめる内容だったり、人気の役者がいるとか、芸達者なベテラン俳優がいるとか・・・そんなことで来てくれたお客様の口コミでさらにひろがっていくということがほとんどでした。でもその逆にせっかく来て下さったお客様が、がっかりするような内容であったり、期待を裏切るようなことがあると二度と劇場には足を運んでもらえなくなります。そういう意味では、演劇は一発勝負で、やり直しがきかない世界です。

ヒットする舞台、集客のできる舞台とは、まず期待を抱かせるようなチラシやポスター作りで多くの人の目にとまるように工夫をすることから、さらにチケットを購入したいというモチベーションにつながらなければなりません。チケットを購入した人は、公演当日までの待ち遠しい気持ち、期待が膨らむ気持ちを駆り立て、劇場に足を運びます。劇場に着いたら、パンフレットを購入し、緞帳の向こう側にどんな世界が広がり、これからどんなお芝居が繰り広げられるのか、時計を見ながらわくわくするのです。そして、幕が上がったと思ったら一気に、舞台の世界へ引きずり込まれて、最後は緞帳が下りてからもしばらくは客席でその余韻を味わい、帰り道は興奮の冷めないまま舞台を回想し、次回への期待にまた胸を膨らませることになります。成功する舞台とは、仕掛けと工夫とテーマ(目的)を裏切らない芝居が必要なのです。

それをフィットネスにあてはめてみたとき、昨年くらいから、私の中でフィットネスクラブのあり方に対して少し不安や戸惑いを感じていました。何時からかフィットネスクラブは、非日常的な空間から日常的な空間になってしまいました。多くの方々が利用することにおいては、そのことはいいと思うのですが、そのためワクワク感やドキドキ感が希薄になったような気がするのです。日常生活の一部になったフィットネスクラブですから、お客様は我が家の如くフィットネスクラブを利用するようになりました。そのため、安心感からかわがままが出てきました。遠慮がなくなったせいか、少しルールを無視した言動や行動も出てきました。いろんな方のわがままに付き合っていくと、クラブにはどんどんいろんな器具が増え、プログラムが増え、システムが増え、いったいフィットネスクラブは何をサービスするところだったのかわからなくなってきました。入会を増やす、継続率を上げる、集客を増やすためにありとあらゆる事をしすぎてきたかもしれません。インストラクターもクラブのスタッフもいったい自分達が何の為に仕事をし、誰のためにサービスを提供したらいいのかわからなくなってきたように感じます。多くのフィットネスクラブが、たくさんの商品を積み込みすぎて、行き先がわからないまま身動きできなくなっているような気がします。

今年に入って、私は昔を思い出して舞台の世界をまた勉強し始めました。私が役者に戻るということではなく、舞台づくりについて学びたいと思ったのです。日本の映画がいっとき厳しい状況に陥ったにもかかわらず、ここ最近邦画を劇場で見る人が増えてきたと聞きます。確かに最近の映画館はきれいですし、すわり心地がいいですし、作品も優れたものが増えてきています。女性客やシニアのお客様を意識した、お客様の視点に立った劇場、作品作りがなされているように感じます。そこには、誰に向けたサービスか非常にターゲットが明確なのです。

今回の「ベルンアクア」もまさしく「ターゲットを明確にした舞台づくり」に徹底的にこだわっていました。

そのポイントとして、顧客からゲストになっていただくためのアプローチに取り組んでいるのです。顧客は、フィットネスクラブに行きたいと思っている人たち、そこから○○フィットネスクラブクラブを選んで来てくれる人たちをゲストと呼ぶのです。そのためにどんなゲストを呼ぶのか?そのゲスト達の五感に訴えられるものは何か?五感に訴えるための体験、他にはない特別な体験、ドラマの1シーンに登場しているような体験を如何に作り出すか?ということでした。フィットネスクラブやスパにエンターテイメントの要素を取り入れて劇場に行くような感覚を作り出すということでした。今年の5月ごろに来日したオリバー・ハインツ氏と食事をしながら私の演劇の世界をフィットネスクラブに取り入れたいと話をしたとき、彼もまた同じことをさらに具体的に話してくれたのですが、それを私に形として見せてくれたのが「ベルンアクア」でした。

 ハインツ氏が言うところのエンターテイメントの世界、つまり体験してわかる世界はとても広く、楽しいものがまだまだたくさんあるということでした。そのためには、その体験は本物でなければならない、日常生活に役立つすぐれたものでなければならない、心のマッサージ(回復)になるものでなければならないということでした。これらのことをターゲットに合わせたエリア作りにいかしたのです。1つの場所であらゆる人のニーズに応えようとすることは、20年前はよかったが今ではそれは非常に難しいということです。私からすると20年前のフィットネスクラブのほうが、ターゲットが定まっていたような気がするのですが・・・20年という年月の中で多くのフィットネスクラブの姿(あらゆるニーズに応える姿)は、さほど変わっていないように思うのは私だけでしょうか?

 さて、「ベルンアクア」の最大の特徴は、五感に訴える施設作りの為に、今までにない工夫が随所に見られます。色、香り、音、光の工夫はもちろん、エリアごとにあるレストランやカフェなどのメニューの選定(フィットネスジム内は低カロリー、サウナゾーンにはビールなどとサラダ類、ファミリープールにはホットドッグやピザ、冷たいドリンクといった具合)、フィットネスジムやスタジオ内に鏡を置かない(ボディビルダーやマニアックなお客をターゲットにしていない)、フィットネスジムは、ICチップでマシーンの設定や負荷をコントロールし紙のカルテが必要ないということ、そのためトレーナーが徹底的にゲストとコミュニケーションが取れるということ(スタッフがマシーンの設定や説明をしなくてもよい)、さらに給水器には5種類の濃度のスポーツドリンクが自由に選べたりするのです。健康志向の人のためのトレーニングの場というコンセプトとターゲットが明確なフィットネスクラブでした。このようにターゲットが定まることで、質の高いサービスを提供することができます。そのことは、ゲストを裏切らない、満足させる、その経験は次へのモチベーションとなって継続(リピート)につながっていくのです。各フィットネスクラブが、ターゲットを絞ることで、立ち往生している状態を打破できればと切に願うばかりです。