No.16 アクアエクササイズを成功させるウォームアップとは?
クラブパートナー誌 2007年4月掲載
いよいよ2007年度のスタートとなる4月を迎えました。皆さんの周りでは新しいスタッフや社員の方が現場に立って指導を始める時期ではないでしょうか?そしてそのための研修やOJTに忙しいのではないでしょうか?また新しいプログラムの導入や新スケジュールなども決まって、その動向に期待と不安が募る時期だと思います。
お客様においては、新しい年度や生活に際して運動を始めようと思う方も増えてくる時期です。ということで、今月から少し、現場指導を担うインストラクターの皆さんに役立つ情報を提供できたらと思っています。この原稿を書くきっかけとなったのが、四国の高松にあるココナツウエルネスクラブで先月「アクアスティック」という新しいプログラムの導入研修をしたことで、現場のスタッフの方からたくさんの質問をいただいたことからです。私自身は、こんなにいろんなことに悩んでいたり、情報がいきわたっていないのかということにちょっとびっくりしてしまいました。同じように昨年、さまざまなフィットネスクラブで研修を行ったときも、インストラクターたちの情報、知識不足を感じていましたが、具体的に今回は質問事項を出していただいたので、これらの質問はきっと読者の皆さんにも当てはまるのではないかと思い、原稿を書くことにしました。
さて、今月はアクアエクササイズのウォームアップの考え方です。私自身は、ウォームアップに関しては少しこだわりがあります。なんでもそうですが、最初の滑り出しがうまくいくと、その後の運動がスムースであったり、ちょっときついことも頑張れたり、レッスンに集中できて時間があっという間に過ぎたりします。当然、参加者と指導者の信頼関係が築けたり、クラス全体に一体感も生まれます。グループレッスンでは特に大事な部分なわけです。ちょうど、若いスタッフの方からも「ウォーミングアップの構成に悩んでいる、効率のよいウォームアップは?」と聞かれましたので、このことについて考えてみましょう。
ウォームアップの目的には、①さまざまなことに慣れる(安心)②目的を達成させるための準備(効果)③怪我をさせない(安全)と大きく3つの面があると思います。まず、1つ目のさまざまなことに慣れる、つまり安心感を持たせることが大事です。初めてアクアエクササイズに取り組むときは、参加者はいろんな不安を抱きます。特に水が怖い人や泳げない人にとっては、緊張感から身体が動きづらくそのため水中ではよけいにバランスを崩してしまうことがあります。
インストラクターがまず考えなければいけないのは、心(気持ち)のウォームアップということです。参加者にとっての不安材料は何でしょうか?「水およびプール」「他の参加者」「指導者」・・ということで、参加者に対してまずは水を知ってもらうことが重要です。水中で安定した姿勢でエクササイズを行えることは、自信にもつながります。そのために①足のスタンスを広めにとる②スタンディングより少しバウンディング(弾む)をする。そのほうが深いプールの場合は、安心する場合があります。③スカリングを習得させる。なるべく早い段階で手による水の操作方法を習得してもらうとバランスをとったり、推進力を生み出したり、抵抗を作り出すことでアクアエクササイズを多様に楽しむことができます。
次に他の参加者に慣れるということは、プールのどの位置でエクササイズを行うか、また自分のワーキングスペース(動く範囲)をどのように確保するかが重要です。相手とぶつかったり、波が来てバランスが崩れやすいとお互い不愉快な思いをしてしまいます。基本的には両手を広げて左右に動かしたときにぶつからないスペースが必要です。
最後に指導者のキューイングを理解する。プールという環境下では、マイクが役に立たなかったり、プールの構造上指導者が見えづらかったりすると参加者はストレスを感じます。はじめに、ボディキューやバーバル(言葉)キューを理解してもらうとその後のプログラムが非常にスムースに進められます。このときのキューイングは一貫性があることが重要です。たとえば、ジャンピングを「バウンス!」と言ったり「弾んで!」と言ってしまうと違うエクササイズのように聞こえてしまって戸惑うのです。動きを指示する最初のキューイングは「ジャンピング」といい、繰り返しの中で言葉を重ねるときに「弾むように!」「バウンスとも言います!」などと使うといいでしょう。このように指導者によって指導の方法が違うわけですから、それに慣れてもらう必要があります。またこのときのキューイングはバーバル(言葉)よりもビジュアルのほうが優先されます。方向キューやカウントキュー(動きを変えるときのみ使う)、プレビュー(予告の動き)などは特に明確に出すことと、バーバルと相関させて出さなければいけません。参加者にとってわかりやすいキューイングは、端的な言葉でメリハリがあり、ビジュアルと相関していることです。
こうして水なれ、人なれができたら、次は目的とする主運動(アクアダンス、ウォーキング、トレーニングなど)の準備です。主運動の中に出てくる動きの基礎練習です。たとえば、アクアダンスであれば、音楽に合わせて動く、リズミカルに動く、さまざまな動きの強度が低い状態で提供します。ウォーキングであれば、歩くための骨盤から下肢の動かし方、手で推進力や抵抗を生み出す方法もここで伝えておくとよいでしょう。いわゆる動きの刷り込みを行っていくわけです。インストラクターもまだ余裕がありますからここでは丁寧に基礎技術(スキル)を習得させていくとよいでしょう。
最後に、怪我の予防を含めた関節の可動性や筋肉の柔軟性を引き出しておくことが大切です。一般的にプールの水温は、体温より低い場合が多いので(通常29~31℃くらい)、体温保持を考えたダイナミックストレッチ(動的)を行っていきます。スタティックストレッチは(静的)を入れる場合は手短に、つなぎの部分に体温保持の運動(ジャンピング、ウォーキングなど下肢動作)を入れたり、組み合わせて行うのが望ましいといえます。今回は、ダイナミックストレッチの行い方を少し解説しておきます。ダイナミックストレッチは、最終的に全身を連動させた運動となっていきます。たとえば、肩関節の水平位の内転&外転運動を繰り返していくとやがて体幹部の回旋や股関節の回旋が起こってきます。動きが徐々に全身に連鎖していくのです。こうして最大の可動域を出していくことが、そのあと身体が軽く動きやすい、大きく動ける、局所的(腰、肩、膝など)な部分に負担がかからなくてすむのです。この考え方がウォームアップに盛り込まれていないレッスンをよく見ることがあります。レッスンの最初からジャンプの連続で心肺機能系へのアプローチばかりで、筋・骨格系への配慮がなされていないことが多いようです。この機会にぜひ考えてみましょう。
今後、中高年者や、低体力者がプールに来る機会はますます増えるものと考えられます。陸上での運動をあきらめてプールに期待を持ってこられる方もいらっしゃいます。アクアエクササイズを通して健康・体力を獲得していただくためには、インストラクターに皆さんは、もっともっと現場に使える知識を増やしていく必要があります。今月のウォーミングアップの考え方をぜひ生かしてくださいね。
来月は、水中でのアクアエクササイズの基礎技術の習得方法です。