No.20 イタリア&ドイツ・スイスにおけるフィットネス視察レポート1
クラブパートナー誌 2007年8月掲載
今月は、アクアエクササイズの指導に関する記事をお休みして、6月7日から14日までの9日間のヨーロッパにおけるフィットネス&ウエルネス研修ツアーについてレポートしたいと思います。日本のフィットネス事情は、主にアメリカを見習って発展してきた経緯がありますが、水中の今後のプログラムや医療との提携、スパ施設の展開などを考えたときには、ヨーロッパにも学ぶことがたくさんあります。私は、過去7年間に渡って主にドイツのクアオルトを中心とした研修ツアーを重ねてきましたが、ヨーロッパもこの間さまざまに変化してきています。国民医療費の問題や高齢化の問題は日本だけでなくヨーロッパも同じです。それぞれの国の事情は違うとしても、フィットネスへの取り組みなど今回は、イタリア、ドイツ、スイスとフィットネスクラブの視察もしてきましたので少しご紹介をしたいと思います。
イタリアはローマに2日間滞在をしました。イタリアというと「テクノジム」という有名なマシーンの会社がありますが、そのテクノジムのマシーンがびっちり並ぶフィットネスクラブというよりスポーツクラブという印象が強い「ローマンスポーツクラブ」を見学してきました。クラブの会員層は老若男女を問わずといった感じですが、通常のフィットネスクラブのようにスタジオ、ジム、プールの他にラケットボールやスカッシュのコート、ランニングのために外の公園とつながったジム、会員が食事を取れるラウンジがとても充実しています。ここでは、スピニングやコンバット(格闘技系)のエクササイズが大人気とのことでした。グループレッスンの参加率は高く、私達が見学していたときも脂肪燃焼のためのエアロビクスが行われていましたが、日本のエアロビクスに比べるとかなりシンプルで大雑把な感じがします。参加者も自由な感じで、マイペースで楽しんでいる様子でした。ここ数年は、ピラティスやヨガといったプログラムも人気だそうですが、メディカルチェックも徹底しているとのこと、またエステなどのパッシブなサービスも充実していました。料金表など見る限りでは、ユーロ高ということはあるものの、総じて少し高めのような感じがします。施設内は、大人の雰囲気で無駄なものがなく、すっきりとした景観で、スポーツをする場所と感じさせるレイアウトです。日本の民間フィットネスクラブは、サービスの種類が多すぎてフロント周りがごちゃごちゃしていたり、狭い場所にいろんなマシーンや器具を配置するのでお客様が落ち着いてくつろげるスペースが少なかったりしますが、かなりイタリア人サイズのゆったりとした空間作りでした。
ドイツでは、フライブルクにあるピラティスとジャイロトニックの専門スタジオを見てきました。ここは、もともとダンサーのためのリハビリ施設でトレーナーをしていた方が、独立をされて作られたスタジオです。日本でもピラティスやヨガの専門スタジオがありますが、こちらのスタジオのコンセプトは「セミパーソナル=ミニグループ」での指導ということでした。1つのスタジオに6人くらいの人が同時にピラティスなどのワークアウトを行うわけです。パーソナルだと1人が負担するセッションフィーが高くなってしまい、なかなか顧客の獲得が難しいこと、でも、ピラティスやジャイロトニックの機械を使ってのワークアウトは、多人数では難しいということで、6人くらいのセッションを提供しているとのことでした。ほとんどが口コミなど、紹介での利用者が多いということでした。日本でもパーソナルのニーズは増えたといっても、実際にはスタジオなどを運営しながらの事業展開はまだまだ厳しい面が多いと思います。そのあたりの事情も聞いてみましたが、ドイツも日本と変わらず、採算面など課題は山のようにあるとのことでした。
最後にスイスで3つのタイプの違う施設を見学してきました。ミグロス(大手食品会社)が経営する「Fitness Park」というチェーン展開しているクラブです。1つ目は、バーデンという街にあるかなり高級感の漂う施設でした。ウエルネスの部分が非常に充実していて、「運動と休養」をテーマに施設の空間作りもかなり凝っています。会員として利用したならどれほど心地よく優雅な気持ちと身体になるのだろうと思わせる施設です。ちょっとした空間の見せ方が心と身体を癒してくれるようです。ここには、「HAMAM」というオリエント地域のスパ施設もあります。ここは、スチームを使ったスパ施設ということでかなり遠くのほうからも利用に来られるということでした。2つ目の施設は、ビンタトゥールにあるメディカルとフィットネスが一緒になった施設です。ドア1つでメディカルゾーンとフィットネスゾーンを行きかうことのできる施設です。特に理学療法にかかる患者さんの、リハビリ終了後のフィットネスクラブへの入会がうまくつながっていてメリットを感じているということでした。逆に栄養療法、心理療法を受けている人は、なかなかフィットネスへの入会にはつながらないということでした。
日本においても似たような傾向があるように思います。でもリハビリを受けている人が、その後の予防も含めた日常のフィットネスへの動機付けと習慣づけができる点において、そのシステムと施設作りは非常に参考になります。何といってもフィットネスクラブのジムスペースには、メディカルゾーンからの患者さんが理学療法士とともにフィットネス施設を自由に利用できるということです。
最後のチューリッヒ市内にあるクラブは、もっともスポーツクラブらしい施設でした。どこかの工場跡を再利用したと思わせるようなアートな空間が、クラブに来た人たちをワクワクさせます。ここの施設は、まだ新しいようでしたが、マシーンがとにかく充実しています。利用している方の層もやや若いアクアティブな方が多いようでした。パーソナルの指導もありますし、ちょうど私達が見学したときはエステ部門を充実させるということで大掛かりな工事をしていました。
タイプは違う3つの施設ですが、共通しているのはどの施設も感覚(視覚、聴覚、嗅覚、触覚)に訴える空間作りを意識していること、身体面だけでなく精神面にも配慮をした施設作りになっていることでした。
最後にスイスにおけるグループレッスンは、主にパワー系(ボディパンプ、スピニング、ステップ)のプログラムに人気があり、その次にピラティスということでした。アクアプログラムも人気があるようですが、週に5本くらいで、いわゆるアクアダンスという形態ではないようです。日本との大きな違いは、トレーニング志向が強いこと、その背景には医療費が高いので自分の身体は自分で守る、予防する意識がスイスは高いということでした。きっと、日本も今後は自分の身体を自分で守る、治療よりも予防という意識が育ってくるのではないかと思われます。また、その時に必要とされる指導者、役に立つ指導者であるための自己研鑽は本当に必要だと感じました。
今回の3国にわたるさまざまなフィットネス施設を見学して、ヨーロッパの社会背景も日本と大きな差はないように思いますが、とかく、受身になりがちなフィットネス参加者達を能動的に自立させていくためのアプローチがこれからの指導者には求められるような気がします。