No.21 アクアエクササイズのティーチング~バーバルキューとは?~
クラブパートナー誌 2007年9月掲載
いよいよ暑い夏が終わって、8月中は何かとクラブに足を運べなかったお客様もそろそろフィットネスクラブにいつものように戻ってこられる時期です。私が、担当しているクラブでは、8月は子供のスイミングスクールの短期教室で大人のアクアエクササイズのレッスンがクローズになったり、海外や国内の涼しいところに避難をされて、8月中は休会届けを出す方などがいらっしゃいます。戻ってきたお客様をこのままずっとプールに来てもらうために、インストラクターも秋から冬にかけてアクアエクササイズの集客を何とか維持したいと考えるところです。
そこで、今月からは魅力的なティーチングでなおかつわかりやすく、スムースに心と身体がついてくるようなティーチングについて考えてみたいと思います。
「ティーチング=指導」とはまさしく、「指示をする」「導く」ということになりますが、とかくフィットネスの現場では「指示」のみのレッスンに出くわすことが多いように感じます。私自身も養成コースなどでティーチングスキルの習得をさせるときに比較的「指示」の習得は難しさを感じませんが、「導き」となるとかなり個人差が出てきて頭を抱えることが多いのです。もっぱら、最近では指導者によって指導の差が出るくらいならとあえて「指示」のみに限定させるようなレッスンスタイルもあるようですが・・・?でもお客様の立場に立って考えると貴重な時間とお金を割いてフィットネスクラブに来る場合、多くの人は何らかしらの目的を持って、それを達成させることに期待を抱いているわけですから、私たちは少なくともそれに応えるべく細大の努力をすべきだと思います。
それでは、ここでまず「指示」のポイントについてまとめてみましょう。「指示」とはまさしく「ゆびさし示すこと」になるのですが、今回はバーバル(口頭)での指示ということですから、参加者が戸惑わず、気持ちよく身体を動かせるように言葉によってさし示すことになります。アクアダンスの場合は、基本的に音楽に合わせていきますから、音楽のカウントの頭やフレーズの頭から動きが変化することが多いので、それを予測して前もって指示を出さなければなりません。そのタイミングが重要です。一般的に動きが変わるときは、カウントダウン「4、3、2、1」することが多く、そのためカウントの最後の「2、1」を言わずに動きの名前や指示をするようにします。「4、3、ロッキング(2、1)」「4、3、右に進みます(2、1)」こんな具合です。でも慣れてくるとカウントダウンを言わずに頭の中でカウントを取って、「次はロッキング」「右に進みます」と動きの指示のみを言うことが多くなります。また、この指示の出し方では、声の大きさやトーンも重要です。「4、3」というようなカウントは、声のボリュームを抑え、「ロッキング」など動きの指示の部分を強くはっきりと参加者に聞こえるように言わなければなりません。つまり参加者に何を伝えたいのか、何を指示したいのかを明確にして、バーバルにいかす必要があるのです。このように前もって指示を出すことをバーバルプレビューと言います。
次に参加者にとっては、出された指示通りに動いたとしてもそれが正しく動けているのかどうかわかりません。
また動き方のコツなどがより明確に指示されたなら、もっとスムースに気持ちよく動くことができます。どのように動けばいいのかといった指示を出す場合は、指導者のボキャブラリーや伝え方の工夫が必要になってきます。
私がよく使うのは「例え」。「~のように」と言った言い回しを取り入れたり、意識するポイントを伝えると参加者の動きはぐっと変わってきます。例えば両手の開閉動作の場合は、「窓を開けるように」とか足のキック動作は「ボールを蹴るように」といった具合です。意識させるポイントは、両手開閉動作の場合は「胸を押し出して」、足のキック動作では「足の甲で蹴って」などと具体的に伝えます。自分の出したバーバルによって参加者の動きが変わってくると、水の動きも変わってきます。クラス全体の一体感や盛り上がり方も変わってくるのです。
そしてこのときに大事なのが、バーバルの優先順位です。一度にすべてのことを言ってしまおうとすると、早口になったり、言葉が重なり合って響くために聞き取りづらくなったりします。反復回数を少し多くしてもかまわないので、1つ1つの情報を参加者に与えていくようにします。与えた情報によって参加者が受け取って変化が見られたときに次の情報を与えるのです。
【指示の出し方】
- バーバルプレビュー 「4、3、キッキング」
- 観察 参加者を見てキッキングができているか確認する
- 例えのバーバル 「ボールを蹴るように~」
- 観察 参加者を再度見る
- 1ポイントバーバル 「足の甲で水を蹴る!」
- 観察 参加者を再度見る
- 評価 「 OKです。」「よくなりました。」など
というような具合です。くれぐれも「足の甲でボールを蹴るように水を蹴ってキッキング!」などと云わないようにしましょう。
アクアエクササイズの場合は、プールという環境を考えるとバーバルキューイングがあまり役に立ちません。一生懸命声を張り上げて頑張って伝えたところで、さほど聞き取れていないことが多く、ほとんどの参加者は指導者の動きや表情などを見て動いていることが多いのです。だからと言って押し黙ってレッスンをするのもお通夜のようになってしまいます。ビジュアルを活かすようなバーバルを心がける必要があります。むやみやたらに声を張り上げてしまうことは、声をつぶしてしまったり、余計な労力を払って疲労してしまいます。バーバルの目的をもう一度把握して
- 音楽にあわせたタイミングのよい指示
- イメージしやすい動きの例え
- 納得できる動きの1ポイントアドバイス
- ①~③を端的に(省エネルギーで)伝える
この4つをおさえるようにしましょう。特に④の端的な言葉は意外と難しいものです。説明的になりすぎたり、早口にならないように言葉を洗練して伝える必要があります。自分自身のレッスンをVTRなどに収録してチェックしてみると、意外といろんなくせを発見できます。私がいろんな指導者の方のレッスンをリサーチすると多いのが、同じ言葉を何度も繰り返す(連呼派)、掛け声だけの指示(おたけび派)、1人で突っ込み、1人でぼけたり、完結する(1人舞台派)、とにかく思いつくまましゃべり間がない(沈黙恐怖派)、ワンパターンの言い回し(一本調子派)などなど。
アクアエクササイズは、水があることで動きも少しゆったりしています。参加者もそんな水の中で気持ちよく身体を動かせることが嬉しいはずです。参加者の立場でレッスンを考えたときにどれくらいの情報量が適切で、モチベーションがつくのか考えてみましょう。基本的には、ビジュアルによって伝えられるところは伝え、バーバルはそれを補足したり、強調させるときに効果的に使っていくといいでしょう。指導者が疲れない指導をするということは、余裕が生まれるということです。余裕の中から参加者とのやり取りを通して感じたことが、次の指導につながっていくのです。「しゃべらずして語る」指導を心がけてみましょう。