No.22 アクアエクササイズのティーチング~ビジュアルキューとは?~
クラブパートナー誌 2007年10月掲載
先月は、バーバル=言語によるティーチングについて書きましたが、今月はビジュアル=視覚に訴えるティーチングについて考えてみましょう。メラビアンの法則(図1)を見ると、人に何かを伝えようとしたとき55%は視覚から入ってくる情報に大きく影響を受けていることになります。先月のバーバルによる影響は、主に声のトーンや大きさ、メリハリなど音としての情報が大きく影響し、何を言っているかという内容に関しては、7%ほどしかキャッチできていないことになります。プールの環境を考えると、声が反響しやすく、排水溝の音や空調の音、更に同じ場所で他のプログラム(水泳、ウォーキングなど)が同時進行している場合を考えるとバーバルの指導には、おのずと限界が出てくるわけです。
さらに、アクアエクササイズは、基本的にインストラクターの動きを模倣して行う運動形態ですから、視覚に訴える情報提供は非常に重要になってきます。最も伝わりやすい方法は、動きそのものをインストラクターが実演してリードをとることですが、プールという環境下でインストラクターが動き続けることは、身体への負担も大きくなります。そのために動き続けることなく、要所のみ動きを見せて、それ以外はビジュアルキューで代用していくことが薦められるのです。動きの代用として用いられるのがサインということになります。主に手でサインを作り出しますので、ハンドキューといいます。たとえば、ジャンピングの動きを両手を上下に動かす、ロッキングの動きを片手で山を描くように左右に振るなどが、ハンドキューです。それ以外の足や体で示すサインをボディキューといいます。たとえば、キッキングは片足を前に蹴りだす動作、ロッキングは頭を左右に振りながらサイドランジを行うなどがその例です。
次に、それらのサインを出すタイミングですが、動きの指示のためのサインは前もって見せる必要があります。前もって見せる次の動作やビジュアルキューのことをビジュアルプレビューといいます。アクアダンスのような音楽のフレーズにあわせた動きを提供する場合は、8カウントのリズムの最後の2カウントを次の新しい動きを見せるようにします。このタイミングがずれると参加者は、動きづらくなったり戸惑って立ち止まってしまったり、他の参加者とぶつかったりということにもなりかねません。
その他のビジュアルキューとしてよく用いられるのが、カウントキュー、姿勢キュー、方向キューなどがあり、パフォーマンス豊かなインストラクターは、ゼスチャーや表情(笑顔、うなづき・・・)、ウィンクなどのアイコンタクトもビジュアルキューに含まれます。
タイミングよくビジュアルキューを出せるようになったら、サインに一貫性を持たせるようにします。例えば、カウントダウンのときは必ず右手を高く上げて指でカウント数を示したり、横への移動は進行方向の手を横に大きく差し出すなど、同じ指示を出すときは必ず同じサインを使うようにするのです。同じ指示なのに違ったサインになってしまうと参加者は戸惑ってしまいます。カウントキューや方向キューなど比較的よく使うサインは、毎回同じサインにしておきましょう。また、サインばかりが続きすぎても、何を伝えようとしているのかわからなくなってしまいます。動きを止めて、参加者とのアイコンタクトをとり、はっきりとややオーバー気味にサインを出すようにします。
次に、ビジュアルで伝えるものとして姿勢キューや呼吸キューなど言葉とゼスチャーを関連付けて行う方法があります。「肩を下げて」と注意を促す場合、バーバルでキューを出しながら両手を肩にあてて肩を下げる仕草をしたり、「あごを引いて」と言う場合、人差し指をあごにあて、あごを引く仕草をするなどです。なるべくシンプルに、姿勢をどのように意識すればいいのかわかりやすいように、ワンポイントで示せるゼスチャーを考えるとよいでしょう。次に私がよく行うゼスチャーの事例を紹介しておきます。
①息を吐く 右手を軽く握り口元へ、そこから指を開いて口を開ける
②頭を高く 右手を頭の上に乗せて、その手をまっすぐ上に伸ばす
③胸を張って 両手を肩の前に置き、前かがみの姿勢から胸を張る
④お腹を締めて 両手でお腹を触り、雑巾を縦に絞るように手を捻る
⑤お尻を締めて 両手でお尻を触り、両手でラップを包むように両手をすくう
このように言葉と関連付けたビジュアルキューは、クラスの最初やウォームアップで行っておくと、何回か行ううちにバーバルキューがなくてもビジュアルキューだけで参加者に伝わるようになります。ここでも一貫性が大事です。また、多用しすぎるとやはり参加者が混乱するので、動きが変わって参加者を観察した後、1つだけ注意キューか呼吸キューを取り入れるようにします。
最後に、参加者のモチベーションをあげるためのビジュアルキューとして賞賛キューや一体感を出すためのパフォーマンスも取り入れるとレッスンが盛り上がってきます。コンサートやライブに行って、いろんなアーティストのパフォーマンスを参考にするのもいいかと思いますが、下記に簡単なフィードバックキューを紹介しておきます。
①OK 頭の上で、両手で丸を作る
②GOOD 親指を立てて2回参加者に押し出す
③もう1回 人差し指を立てて2回振る
④最高 両手を胸の前で組み、そこから前に広げる
⑤元気 右手で力瘤を作り、ガッツポーズ
動きを反復しているとき、少し集中力が途切れて疲労感を感じ出したときに用いると参加者が「頑張ろう!」という気になったり、注意やアドバイスを与えた後にその成果をきちんと評価することで参加者にやる気が生まれてきます。ようするに参加者が、見てもらっている、気づいてもらえていると感じることは、レッスンに取り組むときの励みとなるのです。一方通行のキューイングだけでは、投げられたボールをキャッチするばかりで、ボールを投げ返す楽しさ、さらにそれを反復していくキャッチボールの楽しさを味わえないのです。
キューイングを通してインストラクターと参加者との間にコミュニケーションが生まれてくることが大事です。まだまだ日本のアクアインストラクターは、ビジュアル表現が弱く、バーバルに頼る傾向があります。せっかく伝えているバーバルを生かすためにもビジュアルキューイングに磨きをかけるようにしてみましょう。
最後にビジュアルキューイングに磨きをかけるトレーニングを少しご紹介します。
自分のレッスンのある部分のみバーバルを一切使わずに、ビジュアルキューイングで指導してみると、参加者がどのような反応をするか試してみるのもいいかもしれません。また自己トレーニングをする場合は、指導の循環「実演⇒観察⇒修正⇒観察⇒評価⇒実演・・・・」を頭でおさえながら1つ1つの自分の動きをシュミレーションしてみましょう。
①実演 ジャンピングジャックのデモンストレーション
②観察 動きを止めて見る(クラス全体をZ字に見回す)
③修正 お腹を締めての注意キュー
④観察 ②と同じ
⑤評価 OKのフィードバックキューと笑顔(頷き)
①~⑤のビジュアル表現を1つ1つ明確に慌てずに行っていきます。余裕がない人は、①~⑤の間がなくいろんなことを同時にやってしまう傾向があるので、同時に2つ以上のことをやらないようにしましょう。例えばデモンストレーションをしながらOKサインを出すなどがその例です。
2ヶ月間にわたって、キューイングについて書いてきましたが、バーバルもビジュアルもバランスよく取り入れてレッスンをスムースに進めていくことがやはり大事です。
自分のパフォーマンス能力をあげるためにも、ぜひ一度自分のレッスンを見直しながら、数々のチャレンジをしてみてください。