No.25 チーム力がもたらすもの Part2 ~大分県竹田市の試みより~
クラブパートナー誌 2008年1月掲載
先月号に引き続き、2008年新年号の始まりも「チーム力」について考えてみたいと思います。
ちょうど今春から40歳~74歳の男女への特定健康診査と特定保健指導が各医療保険者に対して義務化され、医療保険者や民間企業、医療機関、自治体の取り組みが活気を見せ始めています。この取り組みが軌道に乗るかどうかは、各関係機関の協力関係やそこに関わるスタッフたちのチーム力が不可欠だと思われます。
そこで今回は、たまたま12月9日(日)に大分県の竹田市で行われた「平成19年度竹田市健康づくり推進大会」に講師として招かれた私が、そこで垣間見た保健師、運動指導員、行政スタッフたちのチームワークの成果をレポートしたいと思ったのでした。ここ最近、1人の力でなく、多くの人との関わりの中で掛け算の効果を引き出すことが大事だと感じていたので、竹田市の試みは非常に興味深く、私を刺激的にさせました。
まず、私が竹田市に招かれるきっかけとなったのは、長年のお付き合いのあるNPO法人にこにこフィットネス協会の下田理事長の推薦によるものです。彼女は、大手のフィットネスクラブのアドバイザーを経験した後、同じ志をもつインストラクター達とNPO法人を立ち上げたパワフルな女性です。はじめは、子供を抱えたインストラクターたちが、お互いの子供を預かりながら仕事を続けていくためのサポート活動を中心に、家族との協力体制を作り上げながら、大分県でのフィットネスの普及を草の根的に行ってきたのです。小さな子供を抱えているため研修会や情報収集ができないということで、みんなでお金を出し合いながら、講師を招いたり、小さな勉強会を積み重ねてきた団体です。下田氏の考え方は、お茶の間フィットネスであり、普段着フィットネスというコンセプトが昔も今も一貫しています。まさしく私が考えるところのフィットネスといつもぴったりはまるのです。民間フィットネスクラブのエアロビクスインストラクターたちが、結婚、出産、子育てを通して地域と密着しながら、着実にフィットネスをフィットネスクラブ以外のところに根付かせていったわけです。そして、そこに竹田市の保健師の方々との出会いがあったようです。
竹田市は、平成17年度に1市3町が合併した周りが山に囲まれた名水と温泉の有名なところです。人口は、27,000人、高齢化率38.2%という地域ですが、主産業が農業のために若いときから無理をして膝関節炎や変形性腰痛症の方が多い地域です。私が、竹田市の市役所を訪れたとき、市役所の外観にまずびっくりさせられました。何と市役所は、そこが市役所とは思えない周りの景観に心地よくマッチしたお城の外観をした建物だったのです。
そして、この竹田市の舵を取るのが牧剛尓市長です。竹田市への想いが深く、この地をこよなく愛し、健康づくりへの取り組みも積極的な非常に明るくお元気な市長です。そして、市民福祉部の木部部長、市議会議長の古井氏(竹田市レクリェーション協会の会長でもある)たち行政のトップの方々の意識が非常に高いことも特筆することです。理解と想いのある行政のトップ達のもと、さらに驚かされるのは竹田市の保健師の方々のエネルギッシュな活動振りとパワー溢れる行動です。地域に密着し、日々現場で高齢者に接している方々であり、高齢者一人ひとりの顔を見て、体温を感じながらの活動が伺えます。この保健師たちと下田氏率いるNPO法人にこにこフィットネス協会のスタッフたちによる高齢者のための健康づくりがとても魅力的なのです。
その中でも、今回の「健康づくり推進大会」で発表された「竹田しゃんしゃん音頭」は、竹田市のチーム力を垣間見るものでした。まず、この唄の歌詞を考えたのが、保健師の方々です。全部で4番まであるのですが、1市3町の特徴、特産を歌詞の中に盛り込んで作られています。さらに「しゃんしゃん」と言うのは「身体をしゃんとする(=背筋を伸ばす)」という意味合いでの「しゃんしゃん」とのことです。この歌詞に、下田氏は、振り付けを行ったわけです。高齢者の方が機能不全に陥りやすい部分を少しでも改善できるように、肩周りや腰周りをほぐせるように、そして簡単に覚えられるように振り付けが考えられていました。立っても座ってもできる振り付けになっています。この「竹田しゃんしゃん音頭」を保健師の方と運動指導員の方々で、あちこちの教室やサークルなどで展開しているのです。自分達のふるさとを思い、身体を思い、みんなで踊る体操だからこそ、心も身体も「しゃん」としてくるのです。たまたま、今回の私の講演内容が「姿勢改善が若さの秘訣!心と身体のイキイキ・ウキウキエクササイズ」ということで、簡単な機能改善体操をご紹介したのですが、非常に興味深く受け取ってもらったようです。行政スタッフから保健師の方も一緒に参加され、自分たち自身の腰痛がすっきり解消し、現場で使えるネタを習得してくれたようでした。何よりも200名近く集まってくださった高齢者の方やそのご家族の方々の熱心な姿は、とても印象的です。「竹田しゃんしゃん音頭」を踊ってくださった最高齢97歳の方のしっかりした動きは、驚くばかりです。高齢者は、個人差が大きいというものの、どこの高齢者よりも竹田市の方々は、エネルギッシュで笑顔がしっかりしていることに驚かされます。でも、これは私の力ではなく、日頃から保健師と運動指導員の地道な取り組みの結果であり、成果だと思わざるを得ません。
引きこもりを減らす、自立した生活を過ごす、自分の人生の質を高めていく、チャレンジを続ける・・・そんな高齢者の可能性を引き出そうとする竹田市の取り組みから私はいろんなことを学び、感じずにはいられませんでした。
竹田市の成果は、決して1人の力ではなく、同じ目的に向ってそれぞれの専門家が、協力をしながら、お互いを尊重し最大の力を出そうとしているところに、足し算ではなく掛け算の成果が得られているのだと思います。「健康づくり」の必要性は、誰もがわかっているものの、それに取り組むきっかけを作ること、続けていくこと、楽しんでいくこと、成果を出していくことは非常に難しいと思います。その難しさを、チーム力でカバーし、専門家の力を生かしていくことがこれからは重要になってきます。フィットネスクラブの入会者減少の厳しさが伝えられ、運動の継続に挫折する人が多い中で、今何をすべきか立ち戻ったときに、とても当たり前のことが実は大切なのだと思います。私たちインストラクターは、何をする専門家か?フィットネスクラブは何をサービスする施設なのか?本来の目的を今一度考えると非常にシンプルな答えが出てくると思います。フィットネスクラブもインストラクターもお客様もお互いが協力しないと「健康づくり」は成り立たないのです。
今、フィットネスクラブに欠けているもの、インストラクターに欠けているもの、それを思い出して「チーム力」を生かしてぜひ大きなウエイブを作り出していきたいものです。
2008年、NPO法人いきいき・のびのび健康づくり協会は、スタッフが21人、ボランティアサポートスタッフが3人となり、ますますチーム力を高めて、日本全国各地で「機能改善体操」の普及に活動を加速していきます。講習会の開催希望やイベント、講演依頼の相談も随時受け付けております。お問い合わせは、
NPO法人いきいき・のびのび健康づくり協会事務局
URL http://www.ikinobi.org
MAIL info@ikinobi.org
まで、よろしくお願いします。